大峰山系 ~敗退、残雪の山上ヶ岳~
今週も寒気が戻り、気温が下がっている。
前日は恐らく雪が降っているだろう。
3月も半ばだが、まだ雪を楽しめると思い大峰へ向かう。
さあどの山にしようか。
男一人で行く先は、やはり山上ヶ岳だろう。
ただ、軽アイゼンしか持っていないので、ダメと思ったら引き返そう。
6時30分。
309号線の水越トンネルを抜けて少し下ったところで朝の光が美しく輝いた。
若干雲が掛かっていることで、柔らかい光の綺麗なグラデーションになっていた。
ここの手前の橋のヘアピンから見る大峰の景色は絶景でお気に入りだ。
近くに車を停めて、一度ヘアピンから朝日を撮影したいと思っているが、
ヘアピンまで道路を歩いて行くのが怖くて断念している。
この写真は、その近くに停めた地点で撮影した。

8時00分。
309号線を進み、洞川温泉街に到着。
川合から洞川へ抜ける峠の辺りから、道路に雪が出始めた。
洞川温泉センター付近からはガッツリ道路は雪で覆われていた。
この状態の洞川は初めて。
3月でもこれほど雪があるのか。結構な豪雪地帯だったんだ。

母公堂に駐車し、清浄大橋に向けて歩き出す。
川、木々、雪の景色。
その美しい情景に、撮影意欲を駆り立てられる。

9時00分。
清浄大橋に到着。
結構雪が深くなってきた。
この時点で登頂は不可能なことが予測出来た。
まあ雪を楽しめれば登頂できなくてもいいか。
ここで小休憩を取り、軽アイゼンを付ける。
あるブログでは10本爪アイゼンとピッケル、ワカンかスノーシューを駆使していたので
今の装備と実力では洞辻茶屋までが目標かな。


女性の入山を阻む女人結界門。
歴史的な匂いが充満するこの独特な空気を味わいながら、
いよいよ門を潜り、登り始める。

午前中は晴れの予報どおり、今のところ晴天だ。

登り始めて1時間ほどが経過。
無積雪期CTと比べて倍くらい掛かっている。
先行トレースがあるからかなり助かっているが、
これがなければさらに倍掛かりそうな雰囲気。

10時15分。
一本松茶屋に到着。

少し休憩を取って、中の様子を見て回る。
結構時間が経っているので、そこそこで出発する。

昨夜積もったと思われる雪が、木の上からバラバラと落ち始める。
日が昇り、気温が温かくなってきた。



お助け水も完全に雪の中。

何気なく通過してしまいそうな場所だったが、一瞬目が止まった。
朝の光が雪面に輝いて美しい。

雪の深さが深くなるにつれ、不安な気持ちがどんどん強くなる。

11時30分。
標高1,400m地点。
1,100、1,200、1,300mの地点にも札があって、それを見るたびに気が遠くなりそうだった。

ようやく洞辻茶屋に到着。
視界が開け、景色が一変する。
ここの手前は夏道を少しだけ外れて、雪で出来た尾根をそのまま登る感じだった。


あぁ、これぞ大峰といった景観。
とても綺麗だ。
ようやくこの情景に出会えた。

12時10分。
洞辻茶屋に入り、大休憩を取る。


コンビニで買った焼きそばパンとカップ麺を食べ、食後にコーンスープで体を温め直す。

さあ、これからどうしようか。
たぶんここから先は一層雪が深くなっているだろう。
雪遊びは結構満喫出来たし、目標の地点にも来れた。
雪が重くて足も疲れてきてるから、ここで下山してもいい。
ただ、先行者のトレースが少し気になっていた。
どこまで行かれているのか分からないが、
トレースを使えばもう少し行けそうな気がした。
それと、たぶん時間的にも縦走ではなさそうだから、
どこかで戻ってくるとは思うが、装備を見てみたいと思った。
このレベルの雪でどの程度の装備なのかを。
時間的には14時半に下山開始する感じでいけそうだから、
あと1時間くらい先を歩いてみることにした。

左に金剛山、右に葛城山が薄っすら見えている。
午後からは少し曇ってきた。

本当に予想どおりに、雪の深さが激変した。
トレースの形も変わっている。
縦長に大きな楕円を描いていて、トレースが浅い。
やっぱりここから雪山ギアを装着したんだ。
トレースの凹凸の付き方や大きさ・形からいってワカンだろう。
軽アイゼンの歩行にこのトレースはあまり役に立たず、
場所によっては太もも上部から腰くらいまで埋まってしまう。
何やかんやで小さいピークに登ると突然トレースが消えた。
えっ。どこに行った?
意味が分からなくなって少し戻って探すと、
急斜面の巻き道の方にトレースが続いていた。
ピークまで来たが手前の巻き道の方が進み易そうで戻ったんだろう。
ふかふかの雪の斜面を体半分くらいズボりながら下ると、
緩やかな道に合流した。

しばらくすると宿坊が見えてきた。
すごい場所に建っているんだな。

見渡す限りの白の世界。
四方を雪深い景色に包まれて、興奮しているのが分かる。

13時30分。
ようやく、だらにすけ茶屋に到着。
プチラッセルも体験し少々疲れてきた。


あるブログで見た光景そのままだ。
腰を低くして何とか通れた。



次の茶屋を抜けると分岐が現れた。
ここの分岐は無積雪期ならたぶん左が正解だろう。
3Seasonに来たことがなかったから、正解が分からなかった。
しかし、左のルートは雪が深すぎてとてもこの装備で歩ける雪ではなさそう。
先行トレースも右へ行っているので、仕方なく右に行くことに。
この辺りから、一歩一歩が慎重すぎるほど慎重な足取りになる。
ちょっとミスったらそのままどこまでも滑っていきそうな足場に怖じ気づきそうになる。
そして、右のルートはちょっとした梯子が何箇所もあり、凍っているので非常に怖かった。
少し進むと人の声が聞こえた。
歩き易い梯子の中段付近、展望のよいところで見た目僕より10歳ほど年配の二人組みが下ってきた。
どうやら西の覗手前で断念したようだ。
彼らはワカンを履いていて、先行トレースを付けてくれた方達だった。
「とてもこの雪じゃこれ以上は危ないと思って。
本当は稲村まで行こうか思ってたんやけどとてもとても。
いやぁ今日は雪多いの分かってたけどここまでとはなぁ、疲れたよ。
んっ、その装備!?無理せん方がええよ、ほんまヤバイ思ったらすぐ戻りや」
トレースのお礼と気遣って頂いたお礼を言い、先へと進む。
「もう少しだけ行ってみます。ありがとうございました。」
そのすぐあとの梯子では、半分以上が雪に埋まり、しかも凍結している。
軽アイゼンでは足元が非常に頼りない。
腕力を使い、梯子につかまって、それはもう全身で登っている感じで階段をクリアした。
これは登ってしまって大丈夫だったのか?
下り…イケる?
心拍数が静かに早くなっているのが分かるほど、緊張感が漂っていた。
正直、写真を撮る余裕はなかった。
こういったコメントは良く聞くが、このことを言うんだなと、実感した。

14時00分。
鐘掛岩に到着。
洞辻茶屋から実に1時間掛かった。
ここは当然巻き道だ。
時間的にそろそろ限界が近付いている。
最後の気合いを入れ直す。


鐘掛岩を巻くが、ここの階段も雪に埋もれている。
階段のピッチが少し広めで、踏み場と次の踏み場の間の雪を踏み抜いてしまいそうな隙間が。
なんとかピッチに合わせて階段を上り、鐘掛岩上部に立った。
しかし、またまた言うが、無積雪期に来たことがなかったので、夏道を知らなかった。
ここ鐘掛岩上部から続く稜線をそのまま伝うものと思って進んでみるが、
雪が緩く、少し踏みかけただけで、雪が崩れ落ちていく。
この下ってどうなってるんだ?
雪があって見えないが、その雪がゆるゆるだ。
雪稜はこれまでになかったほどの痩せ尾根。
って、痩せ尾根どころか、肩幅くらいしかない。
明らかに道を間違えたと思って周りを見るがトレースが見つからず分からない。
もうここまで来たし、西の覗も前に迫っているが、雪も楽しめたし満足出来たじゃないか。
緩い雪が崩れていく先を想像すると、ここであっさり撤退を判断した。
1,600mを超えた辺りか。
14時15分。
まあ、翌月の4月に登って分かったが、ここは階段を登り切ったところで右に行くのが正解だった。
しかし、雪で完全に覆われていて夏道が分からなかった。
やはり無積雪期に一回は歩いておくのが雪山の鉄則だというのを実感した。
雪山を舐めてはいけないな。
金剛山とはスケールが違い過ぎた。

敗北感は特に感じず、逆にこの装備でここまでこれた満足感に浸りながら下山を急いだ。
登りの時には気がつかなかったが、
雪屁がもの凄く発達している場所があった。

14時55分
あっさりと洞辻茶屋に到着。
1時間半くらい掛かったところを30分ほどで戻れた。
怖かった階段のところはさすがに慎重になったが、
それ以外はサクサク歩けた。
もう少し進んで行っても良かったかな?

16時05分
清浄大橋に無事下山。
たった1時間ちょいで戻れた。
実は、正直、あの撤退した場所はすごい怖かった。
だから早く家に帰りたくなって、ほとんど撮影せずにひたすら歩いたのが本音だ。
でも、本当に無事で良かった。
経験豊富な方達はこれくらい平気なのだろうが、
僕にはまだまだレベルアップしなければいけない要素がたくさんある。

ここまで来るとホッとして、歩く速度が遅くなる。
朝、清浄大橋の雪を見た時は、その積もりっぷりに驚いたが、さっきのあの景色を経験すると、
これくらいでは全く驚かない。
まぁ浅いとはいえ雪は雪だから、足が重いことには変わりなく、疲れた足に大概効く。
16時45分。
無事母公堂に戻り帰路へついた。

今回の山行は、装備不足で無謀なものであった。
本当に無事下山出来てよかった。
しかし、自分の中で何かが変わったような気がした。
そして、いつか装備を整えて、成長した姿で必ずリベンジしたい。
山上ヶ岳、険しさと優しさが同居したよい山だった。
撮影機材
EOS 7D
SIGMA 17-70mm F2.8-4 MACRO HSM
スポンサーサイト
| 大峰山系 | 22:25 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑